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宮崎地方裁判所 昭和34年(ワ)183号 判決

判  決

宮崎県西臼杵郡高千穂町大字三田井塩市

原告

藤原ナルミ

(ほか二三名)

右原告ら訴訟代理人弁護士

戸田謙

宮崎市別府町

被告

宮崎県

右代表者知事

黒木博

右指定代理人

豊留勉

日高千文

右訴訟代理人弁護士

佐々木曼

右訴訟復代理人弁護士

杉本勤

主文

被告は原告らに対し別紙計算表中認容金額欄記載の金額とこれらに対する昭和三四年二月五日から支払いずみまで年五分の割合による金員を各支払いせよ。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は三分し、その二を原告らのその余を被告の各負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は次のように述べた。

第一、請求の趣旨

被告は原告らに対し夫々別紙計算表中原告請求金額欄各記載の金額とこれらに対し昭和三四年二月五日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払いせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決と仮執行の宣言を求める。

第二、請求の原因事実

一、原告らは、いずれも同計算表記載のとおり宮崎県下の市町村立学校並びに県立高等学校に勤務する教育公務員で、原告若松茂は昭和二九年四月一日同斉藤譲は、同年五月一六日からその余の原告らは、おそくても同年二月四日以来勤務を続けて現在に至つているもの、被告県は市町村立学校職員給与負担法により市区村立学校教育公務員にあたる一部の原告らの給与(宿日直手当を含む)の負担支払義務者であるとともに、県立高等学校の設置者として県立高等学校教育公務員にあたる他の原告らの給与の支払義務者である。

二、原告らは、昭和二九年四月一日から昭和三三年一〇月三一日までの間夫々の勤務校で、同計算表中宿日直回数欄並びに日直、半日直(五時間未満の日直以下同じ)回数欄の各回数、日直(半日直を含む)及び宿直勤務をした。そうして、原告らは、これらの日直手当、宿直手当として被告県から、宿直一回について金二〇〇円日直一回について金二五〇円の割合で、同計算表中既支給済金額欄記載の各金員の支給をうけたが、半日直については全然その支払をうけていない。

三、しかし、被告県は、原告らに対し、当然宿日直手当は、一回について金三六〇円、半日直手当は一回について金一八〇円支給すべきであり、それによつて、右期間の宿日直手当半日直手当を計算すると、同計算表中法定支給金額欄記載の各金額となる。

四、その法的根拠は次のとおりである。

(一)  原告ら教育公務員の宿日直手当は、地方公務員法二四条六項の規定によると条例で定めるよう規定されているが、実際被告県で、そのような給与条例人事委員会規則が定められたのは、昭和三三年一一月一日であるから、原告らが本訴で宿日直手当の差額を請求しているのは、そのような条例のない間に勤務した宿日直と半日直の分である。

(二)  このように条例のないときは、地方公務員法附則六項の規定によつて、「なお従前の例」によることになる。そこで、この従前の例が何かというとそれは旧教育公務員特例法三三条にもとづいて定められた同法施行令一一条(以下単に一一条という)の「公立学校の教育公務員の給与については、国立学校の教育公務員の例」によることを意味する。

(三)  その国立学校の教育公務員の宿日直手当は、一般職の職員の給与に関する法律一九条の二の規定にもとづいて定められた人事院規則九―一五の二条の規定により「宿日直勤務一回につき金三六〇円(五時間未満の場合は金一八〇円)」と定められているので、結局原告らの宿日直手当は、条例未制定の間は、当然この国立学校の教育公務員の宿日直手当と同額が支給されるべきである。

五、そこで、原告らは被告県に対し右法定支給金額から既支給済金額を控除した額である、同計算表中原告請求金額欄記載の各金額の支払いを求める債権を有するから、右各金額の支払いと、これらに対し原告らが被告県に対して発した内容証明郵便が被告県に到達した日の翌日である昭和三四年二月五日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三、被告県の答弁と抗弁に対する反駁

一、法令を改正し又は廃止した場合、その経過措置として、一定期間又は当分の間一定の範囲、旧法令の適用などについて、なお従前の法令の規定を生かし、旧法令から新法令への移行の際の法律関係を円滑に運行するのが通例である。本件において、公立学校の教育公務員は昭和二四年一月一二日から地方公務員となり従来の政府職員の新給与の実施に関する法律の適用がなくなつた結果、旧教育公務員特例法の適用をうけていた原告らは、地方公務員法附則六項により条例が制定されるまで(被告県では、昭和三三年一一月一日まで)旧教育公務員特例法三三条にもとづく一一条によつて「国立学校の教育公務員の例による。」という状態を凍結した内容で、法律上取扱うということにしたもので、それは国立学校の教育公務員が適用をうける一般職の職員の給与に関する法律が適用法律であることを意味し、一般職の職員の給与に関する法律が改正された内容において原告らに適用されることは論をまたない。

二、前述のとおり原告らの身分が変つたにも拘らず、法的整備が伴はず、給与については経過規定で「例による」「なお従前の例による。」と規定して法的空白状態を防止したものであるから、「例による」を訓示規定と解釈することは出来ず、立法者も勿論強行規定として制定したものであることは明らかである。若し訓示規定と解釈すれば、全く法的空白状態を現出し、法による行政という近代法治国家の根本が無視される。

三、被告県では、教育公務員をのぞくそのほかの県職員に対し、昭和二九年一一月一五日条例第四〇号で職員の給与等に関する条例を制定施行し、それにもとづいて職員の給料等を支給しているが、教育公務員をその適用から除外している。これは被告県が国立学校の教育公務員と同等に取扱う趣旨であると解釈しなければならない。そうしないと、法律条例にもとづかないで、被告県が教育公務員の給与などを支出したことになり地方自治の本旨に反する。

四、労働基準法二四条により、賃金は通貨で直接労働者にその全額を支払はなければならないものである。全額というのは、定額が定められておらなければ考えられぬ概念でありその時の財政状態によつて行政者の恣意によつて左右されてはならないことを意味する。「例による」という規定を訓示規定と解し、金三六〇円の定額をきめたものでないとするなら、公務員は、給与獲得のため争議権を行使してよい結果とならざるをえない。従つて、公務員に争議行為を禁止した同法三七条は憲法違反である。

五、被告県は、その給与条例(昭和三二年九月一日制定同年四月一日施行)施行以后条例にもとづく人事委員会規則が制定施行された昭和三三年一一月一日の前日までは、右条例が「なお従前の例による」と規定しているからこの従前の例とは、条例制定の直前即ち昭和三二年八月三一日の制度額をいうというが、

(一)  地方公務員法二五条は「職員の給与は前条第六項の規定による給与に関する条例に基いて支給されなければならず又これに基かずにはいかなる金銭又は有価物も職員に支給してはならない。」と明文化しているのに、被告県はこれに違反して法的根拠のない通達通牒の類によつて勝手な基準を設けて公立学校の教育公務員に宿日直手当を支給してきたものであるから違法である。

(二)  右条例が遡及して施行されたがこれは原告らの既得権を侵害するもので違法である。少くとも右条例が有効であるとしても制定后の分だけである。

六、被告県は半日直制度がなかつたと主張するが

(一)  人事院規則九―一五により、国立学校の教育公務員に対し半日直制度が設けられた以上原告らもこれによることは当然である。

(二)  被告県は、昭和三三年一一月一日人事委員会規則第一号によつて、同日から半日直手当を支給しているが、原告らの半日直勤務の内容は、これまでと全く同一で何等異つたところはない。

七、職員団体の団体交渉権は、労働組合法にいう団体交渉権ではなく、団体協約は締結できず、仮りに交渉によつて妥結しても法的拘束力はない。公務員法によつて公務員の団体行動権、団結権、争議権などを剥奪したからこそ地方公務員法は、その代償に身分給与の保障を与えることを目的にして立法された法律条例により、給与の種類額を明確に定め公務員の権利を明らかにしたものである。原告らの中には、宮崎県教職員組合に加入していないものもあり、そのうえ争議権、労働協約締結を前提とする団体交渉権のない以上、被告県と同組合間でどんなことが話し合われても原告らには何等の法的効果が及ばない。しかも同組合が被告県の支給する金額の宿日直手当でよいと主張したことはない。

八、(一) 原告らの宿日直手当請求権は、公法上の債権であり、宿日直をしたという事実にもとづき当然発生するもので、地方自治法二三三条による会計法三〇条の規定で五年の消滅時効にかゝるとしなければならない。労働基準法一一五条は公法上の債権を含まない。会計法三〇条にいうとこの他の法律は会計法と同格の法律を意味し、民法の特別法である労働基準法などは含まれない。

(二) 労働基準法の適用があるとしても、同法一条二項で「この法律で定める労働条件の基準は、最低のものであるから、労働関係の当事者はこの基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとよりその向上を図るように努めなければならない。」と規定し、民法の規定する一年の短期消滅時効を二年として立法しながら、会計法三〇条による五年の時効を二年にしてその利益を奪うことは、労働基準法が予想しておらない。従つて、同法一条二項の精神から、原告らの給与請求権に、同法一一五条の適用はない。

(三) 国家公務員の給与請求権は会計法三〇条によつて、五年の消滅時効にかゝるのに、原告らの給与請求権が二年によつて消滅時効にかゝるというのは、国家公務員と地方公務員の承応均衡の原則や平等の原則に違反する。

九、被告県は、原告らの宿日直手当の請求期限を、当月分を翌月一〇日までに請求すればよい取り扱いをしてきたから、仮りに二年の消滅時効にかゝるとしても、昭和三二年一月分以降の分は消滅時効にかゝらない。

被告県指定代理人並びに訴訟代理人らは次のように述べた。

第一、請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第二、請求の原因事実に対する答弁

一、原告ら主張の請求の原因事実中一の事実は認める。

二、(一) 同二の事実中原告藤原ナルミ、同夏田サナエ、同下田ミユキの半日直の点をのぞきその余の事実は認める。

(二) しかし、右原告三名が主張の期間と回数(たゞし原告藤原ナルミは二二回)土曜日の午后在校したことは認める。

(三) しかし、それは原告三名が在校した学校では、平常の授業を行う日でも大体午前八時三〇分から午后五時までの間、教員の輪番で校舎の一般的管守下校時の戸締り火元点検などのため「日直当番」を置いているが、右原告三名はその日直当番として在校したもので、半日直手当の支給対象となる半日直勤務をしたのではないから被告県は、原告三名に半日直手当を支給する義務はない。

三、同三の事実は否認する。

四、被告県が原告らに対し支給した宿日直手当は、適法かつ正当なものである。その法的根拠は次のとおりである。

(一)  原告らが主張のような宿日直勤務をしたとき、その手当に関し被告県の条例がなかつたことは認める。

(二)  さて地方公務員法附則六条の「従前の例による。」とは、同附則の施行日である昭和二六年二月一三日の直前である同月一二日の関係法規なり制度によるという意味である。従つて、原告らが主張する人事院規則九―一五が制定施行されたのは、昭和二八年一月一日であるから、このような爾后の改正法規制度にまでよらしめる法意ではない。このことは、地方公務員である公立学校の教育公務員に対する給与関係は、条例によつて定められるべきものであり、既にそのことが地方公務員法二四条六項によつて約束され、同法附則六項が条例制定までの間その空白をうめる一時の暫定的手段として採られた措置であることから明白である。そのことは、被告県の条例(昭和三二年九月一日制定同年四月一日施行)が宿日直手当の支給について「なお従前の例による。」と規定していることにもいえることで、その条例のいう従前の例も同年八月三一日の制度額をいうものであつて、被告県では当時(昭和二八年度以来)本校について日直手当一回金二五〇円宿直手当一回金二〇〇円、分校について日直手当一回金一五〇円、宿直手当一回金一二〇円を一率に支給する制度をとつてきておりこれが従前の例によるものとして取扱いかつ解釈している。

(三)  一一条施行前后(昭和二四年一月一二日)の国立学校の教育公務員と公立学校の教育公務員に対する宿日直手当支給の法規や制度は次のとおりである。

(1) 国立学校の教育公務員については、昭和二二年七月一日から昭和二三年一二月三一日までの間は「労働基準法の施行に伴う政府職員に係る給与の応急措置に関する法律」(昭和二二年法律第一六七号)および「昭和二二年法律第一六七号による給与支給基準則(昭和二二年給発第一、三二七号大蔵省通牒)によつて級地別定額の宿日直手当が支給されていたが、昭和二四年一月一日から昭和二七年一二月三一日までは「政府職員の新給与実施に関する法律の一部を改正する法律」(昭和二三年法律第二六五号)および「政府職員の新給与実施に関する法律の解釈及び運用方針について」(昭和二四年二月七日給本甲第二四号第二一条関係第一、一)によつて、超過勤務手当として各人別定率制の支給をした。昭和二八年から現在までは「一般職の給与に関する法律の一部を改正する法律」(昭和二七年法律第三二四号)による「第一九条の二の追加」および「人事院規則九―一五」によつて、宿日直手当の定額支給がされている。

(2) 地方公務員である公立学校の教育公務員については、昭和二四年一月一二日国家公務員である地方教官から、地方公務員である公立学校の教育公務員にその身分が切りかえられたが、国家公務員であつたときからその給与については、市町村立学校職員給与負担法(昭和二三年法律第一三五号同年七月一〇日公布同年四月一日遡及適用)により、宿日直手当などについて地方公共団体である都道府県の負担を定め、政府職員の新給与実施に関する法律の一部を改正する法律の制定施行に拘らず、右給与負担法は改正されないで、存続された。なお同法により県が負担する給与の種類には、国立学校教育公務員の宿日直手当についてその建前としている超過勤務手当という定めがなかつたので、超過勤務手当として支給できなかつた。義務教育費国庫負担法の一部を改正する法律(昭和二三年法律第一三三号昭和二三年七月一〇日公布同年四月一日遡及適用)一条(二分の一国庫負担)の規定施行に伴い、昭和二三年八月一八日付学発第三五六号文部省学校教育局長から都道府県知事あて通牒で、「義務教育に従事する職員の日直手当及び宿直手当支給規程準則」を定め、日直手当宿直手当一回当りの最高限度額を定め、その金額以内において各都道府県に実支給額を決定させ、一率に定額制の支給をさせていた。その后昭和二四年五月七日政令第九〇号で義務教育費国庫負担法施行令が制定公布昭和二三年四月一日に遡及適用されたが同令四条によつて教職員に対する日直及び宿直に関する手当は「国家公務員の例に準じて文部大臣が大蔵大臣と協議して定めた額」と定められ、更にこの規準にもとづき昭和二四年六月二五日付発初第四二号文部省初等中等教育局長から各都道府県教育委員会あての通牒「義務教育費国庫負担法施行令第四条の額について」により前記支給規程準則による定額を存続のうえ、昭和二三年度及び昭和二四年度分の宿日直手当額の最高限度額を定め、その額の範囲内で各都道府県に実支給額を決定させ、一率定額の宿日直手当を支給することになつた。そうして、右義務教育費国庫負担法は、昭和二六年三月三一日廃止され、地方財政平衡交付金法が制定施行されて教職員の給与に関する国庫負担は交付金制度に吸収されたが、昭和二七年八月八日新たに義務教育費国庫負担法(昭和二八年四月一日から施行)が制定され、教職員の給与についてその二分の一を国庫が負担することになつた。その間教職員の宿日直手当の支給は、昭和二六年度まではおゝむね前記国庫負担法施行令及び支給規程準則によつて支給され、昭和二八年度以降条例制定までは、この制度のもとに県教育委員会がその金額を決定して支給した。

(四)  仮りに右附則六条の規定が一一条をさすとしても、一一条の規定は、任意規定であつて、「例による。」とは公立学校の教育公務員について国立学校の教育公務員に対する給与規定をそのまゝそつくり適用するのではなく、参考規準にせよという趣旨である。そのわけは

(1) 憲法九二条ないし九四条は、地方自治の自主性独立性を保障している。ところで、国と地方公共団体、地方公共団体相互間においては職務の種類、内容、職員の構成財政状態その他諸種の条件が相違することは免れないから、地方自治の自主性、独立性を尊重する限り、職員の給与も許される範囲において各地方公共団体が独自の立場で取りきめて支給することができなければならない。

(2) 一一条の規定自体のしかたからも「公立学校の教育公務員の給与については国立学校の教育公務員の例による。但し、政府職員の特殊勤務手当に関する政令(昭和二三年政令三二三号)に規定する公立学校職員の特殊勤務手当については、なお従前の例による。」と書き分け、同条の施行后、公立学校職員の特殊勤務手当は従来どおりそのまゝ支給されているが、公立学校の教育公務員の宿日直手当については国立学校の教育公務員のそれどおりに支給はされていない。

(3) 前記四、(三)で比較したように一一条施行当時及びその前后にわたり公立学校の教育公務員は、国立学校の教育公務員どおりの宿日直手当が支給されていないことはとりもなおさず、立法者自ら暗黙のうちに有権的に一一条の規定を訓示規定と解釈しているものである。

(4) 地方公務員法制定施行と同時に一一条の根拠規定である教育公務員特例法旧三三条が削除され、これに代はる規定として、同法二五条の五の規定が設けられたが、それによると、「公立学校の教育公務員の給与の種類及び額は当分の間国立学校の教育公務員の給与の種類及び額を基準として定める。」ということを明記して、条例でそれを定めるときの態度を示している。このことは、地方公務員法ができたとき初めて定めた新しい考え方にもとづくものではなく、公立学校の教育公務員が官吏から公吏に切りかえられたときから、即ち一一条の規定が制定施行されるときからの考え方をそのまゝ明定したものとみるべきである。

(5) 公立学校の教育公務員の勤務条件や給与に関しては、労働基準法の適用があるが、国立学校の教育公務員については、同法の適用がないため、両者の勤務、給与支給関係を全く同一に取扱うことは、不可能な面がありうる。

(五)  半日直についての被告県の見解は、国立学校の教育公務員も公立学校の教育公務員も公立学校の教育公務員も、右人事院規則九―一五が制定されるまでは半日直について何等法令上の定めはなかつた。そうして国立学校の教育公務員は、右規則の施行により半日直制度が認められることになつたが、公立学校の教育公務員は一一条の施行前后は勿論のこと、被告県の条例が制定施行されるまで半日直制度はなく校長がその夜の宿直勤務として、或はその日の日直当番としてこれに当らせ、それに対し手当は支給されない取扱いであつた。

国立学校の教育公務員にあつても、昭和二八年二月三日人事院細則九―一五―一の一条によれば、「土曜日又はこれに相当する日に退庁時から引続き宿直勤務を命じられた場合にはその勤務は一回の勤務とする。」旨の規定があるから、運用次第では、半日直勤務の取り扱いをしないことができるのであつて、従来の週番又は日直当番の慣行も、そういつた取り扱いであつた。従つて、被告県が半日直制度を認めず半日直手当を支給しなかつたからといつて直ちに国立学校の教育公務員の例に準じなかつたことにはならない。

(六)  教育公務員特例法の一部を改正する法律(昭和二六年六月一六日法律第二四一号)により、二五条の六、附則四項ないし八項が新設され、その給与、勤務時間その他の勤務条件について都道府県の当局と交渉するための団結権と団体交渉権を認め、給与関係も団体交渉の対象とされた。そこで、原告らの所属する宮崎県教職員組合と被告県との数次にわたる団体交渉の結果原告らに支給する宿日直手当の額がとりきめられたもので、原告らは、その話し合によつて取りきめられた宿日直手当を異議なく無条件に受領した。それにも拘らず今日になつて、原告らが異議なく受領した宿日直手当は、その内払いにすぎないとして差額を本訴で請求するのは、団体交渉の意義を失はせ、正常な労働慣行を紊るもので信義誠実の原則に違反し権利の濫用である。

第三、抱弁

仮りに原告らの請求が正当であるとしても原告らの宿日直手当の受給債権は、会計法三〇条の「他の法律」に相当する労働基準法一一五条の規定によつてその消滅時効は二年である。ところで、原告らが被告県に対し宿日直手当の差額を請求する意思表示をしたのは原告らが本件請求原因事実第五項に主張する書留内容証明郵便によつてである。

そうして原告らの宿日直手当について、原告らの主張するように国立学校の教育公務員と同一に取扱うなら、人事院規則九―七の一一条には、宿日直手当は一の給与期間の分を次の給与期間における俸給の支給日に支給することにななつており、俸給の支給については、同規則一条により、文部省は月の一日から一五日までの分は当月九日に、月の一六日から月末までの分は、当月二四日に(右両当日が休日のときは至近前日)各支給することになつている。従つて宿日直手当の支給は、月の一日から一五日までの分はその月の二四日に、月の一六日から末日までの分は、翌月九日に各支給することになるから、その日が履行期である。

本件において、昭和三二年二月四日以降履行期が到来した同年一月一六日からの宿日直手当の差額及び半日直手当について被告県に支払い義務があつても、同年一月一五日から前の宿日直(半日直を含む)手当請求権は、時効によつて消滅している。

なお実際の取扱として被告県は宿日直手当を当月分は翌月一〇日に支給していたことは認める。

証拠関係<省略>

理由

一、原告ら主張の請求原因事実中一の事実は当事者間に争いがない。

二、同二の事実中、原告らが昭和二九年四月一日から昭和三三年一〇月三一日までの間夫々の勤務校で、原告ら主張の各回数の宿日直勤務をし、それらについて被告県から別紙計算表中既支給済金額欄の各宿日直手当が支給されたこと、及び原告藤原ナルミ同夏田サナエ及び同下田ミユキが同計算表中半日直(五時間未満の日直)として主張している回数勤務校に土曜日の午后在校したこと(但し原告藤原ナルミの半日直の回数については争いがある) 当事者間に争いがない。

三、(証拠)によると、同原告の半日直の回数は同原告主張どおりであることが認められ右認定に反する証拠はない。

四、(一) 原告ら教育公務員の宿日直手当は、地方公務員法二四条六項の規定によると条例で定めるよう規定されているが被告県でそのような給与条例人事委員会規則が定められたのは昭和三三年一一月一日であつて、原告らが本訴で宿日直手当の差額を請求している期間は、そのような規定のなかつた間であることは被告県が自認しているので、このような場合宿日直手当は、如何なる法的根拠により如何なる規準によつて支給されるべきかについて考察する。

(二) もともと国家公務員であつた公立学校の教育公務員は、昭和二四年一月一二日に施行された教育公務員特例法(法律第一号)三一条によつて当該地方公共団体の公務員に身分を移され、同法三三条で、公立学校の教育公務員について、「別に地方公共団体の職員に関して規定する法律が制定施行されるまでの間は、政令で特別の定めをすることができる。」ものとした。

そこで同日教育公務員特例法施行令(政令第六号)を制定し、その一一条で「公立学校の教育公務員の給与については国立学校の教育公務員の例による。但し政府職員の特殊勤務手当に関する政令(昭和二三年政令第三二三号)に規定する公立学校職員の特殊勤務手当についてはなお従前の例による。」ことにした。

この規定は、国家公務員から地方公務員に身分が切りかえられた公立学校の教育公務員は、その給与に関しては、国立学校の教育公務員と同じ取扱いをするが全く同じ取扱いにすると公立学校が国立学校と異るところから特に規定された政府職員の特殊勤務手当に関する政令中第一二章公立学校職員の特殊勤務手当の規定(同政令九二条九三条)が適用されなくなるので、その結果をさけるため右の特殊事情のため設けられた公立学校の学校職員の特殊勤務手当の規定は生かし、なおこれらの規定は、公立学校の学校職員に適用できるようにとの配慮のもとに右一一条の規定(以下単に一一条という)で、なお従前の例によるとしたもので、一一条が「例による。」といゝながら「なお従前の例による。」とした趣旨は右にあつたわけである。

(三) このときの国立学校の学校職員の宿日直手当は政府職員の新給与実施に関する法律の一部を改正する法律(昭和二三年法律第二六五号昭和二四年一月一日から施行)二一条により超過勤務手当として支給されていた。従つて公立学校の学校職員の宿日直手当もこの法制度によることになる。

(四) 他方義務教育費国庫負担法(昭和一五年三月二八日法律第二二号)一条は「市町村立尋常小学校の教員(代用教員を含む)の俸給のため北海道地方費及び府県に於て要する経費の半額は国庫之を負担す。」と規定していたが、それが昭和二三年七月一〇日法律第一三三号の改正によつて「旅費、扶養手当、勤務地手当及退官又は退職に関する手当並に政令を以て定める日直及び宿直に関する手当」についてその半額は国庫が負担することに改め同日市町村立学校職員給与負担法(法律第一三五号)を定め、市町村立の小学校中学校などの教員の俸給、日直及び宿直に関する手当などは都道府県の負担とした。そうして、昭和二四年五月七日義務教育費国庫負担法施行令(政令第九〇号)を制定し、同令二条は「第一項、法第一条第一項の日直及び宿直に関する手当は、職員が日直又は宿直の勤務に服した場合に支払われる一学校につき一人分の手当とする。第二項、前項の日直及び宿直に関する手当については一分校は一学校とみなす。」と規定し、同令四条は義務教育費国庫負担法一条二項の給与のうち日直及び宿直に関する手当は国家公務員の例に準じて文部大臣が大蔵大臣と協議して定めた額とし、文部大臣は右給与の額にもとづいて算出された給与予算の範囲内において、各都道府県別の給与の額を定めることとした。そうして、この政令は昭和二三年四月一日から遡及して適用されたが義務教育費国庫負担法及び同法施行令はあくまで義務教育費の経費の半額を国庫が負担することを根幹とし、それに必要な附随的規定を設けたものであつて、同法施行令によつて文部大臣が国家公務員の例に準じて大蔵大臣と協議して宿日直手当額を決定しそれによつて、都道府県に、その額を宿日直手当として支給させようとしたものではないといわなければならない。従つて、右文部大臣と大蔵大臣とが協議して定めた額は国庫負担額算出のための基準となるに過ぎない。そのような協議にもとづき、文部省から昭和二四年六月二五日発初第四号で各教育委員会宛に「義務教育費国庫負担法施行令第四条の給与の額について」と題する通牒を発し、昭和二三年度及び同二四年度の宿日直手当について定額を定めた。(成立に争いのない乙第三号証参照)

これより先文部省は昭和二三年八月一八日発学第三五六号で、各都道府県知事に宛て「義務教育に従事する職員の退職手当及び日直手当の支給について」と、題する通牒を発したがそれによると、市町村立学校職員給与負担法の制定によつて市町村立の小学校中学校などの教員の宿日直手当が都道府県の負担となりそのうち義務教育に従事する職員の分に要する経費については義務教育費国庫負担法の改正によつてその半額を国庫において負担することになりその職員の給与の額は近く政令をもつて定められる予定であるがこれが給与については「義務教育に従事する職員の退官退職手当支給規程準則」及び「義務教育に従事する職員の日直手当及び宿直手当支給規程準則」によつて取扱うよう行政指導をし、そのような「規程準則」を示した。しかしこのような「規程準則」を文部省が規定することを委任した法令はどこにも見当らない。そうすると、右「規程準則」に従つて現実に宿日直手当が支給されたとしても法令の根拠にもとづかない支給でしかない。そうすると、一一条が制定され施行された昭和二四年一月一二日当時被告県では右「規程準則」によつて公立学校の教育公務員に宿日直手当を支給したとしても、一一条にいうところの「例による」とはこの規程準則をさすものでないことは、明らかであり、その后文部省が各教育委員会に宛てた前記「義務教育費国庫負担法施行令第四条の給与の額について」と題する通牒によつて定めている宿日直手当の定額の支給も、この施行令がただ義務教育費を国庫が負担するため、その負担額算出の基準にすぎないものであつてみれば、右によつて別に公立学校の教育公務員の宿日直手当が定められたことにならない。従つて右通牒によつて定められている額の宿日直手当の支給が一一条の例によつた支給としてそれる正当づけるわけにもいかない。

(五) このようにしているうち、昭和二五年一二月一三日地方公務員法が施行になり同法二四条六項で「職員の給与、勤務時間その他の勤務条件は条例で定める。」ことになり、同法二五条一項は「職員の給与は右六項の規定による給与に関する条例にもとづいて支給されなければならず又これにもとづかずにはいかなる金銭又は有価物も職員に支給してはならない」と規定した。とはいうものの条例が制定施行されるまでの経過規定として、同法附則六項によつて、職員の給与などについては「なお従前の例による。」ことにした。

そうすると、右にのべたとおり公立学校の教育公務員の宿日直手当は法制上は国立学校の教育公務員の例によりそれと同一の取扱をすることにしていたが右附則六項によつてそれをそのまゝ、従前の例として被告県の条例で宿日直手当に関する規定が設けられるまで、適用されることになつたと解するのが相当である。

そこで、右地方公務員法施行と同時に、公立学校の教育公務員の給与などについて政令で規定できるとしていた教育公務員特例法旧三三条(以下単に旧三三条という)は、それを条例で決めようとする地方公務員法と抵触するため、同条は削除された。そうしてその代りに、教育公務員特例法二五条の五の規定ができ、それには「公立学校の教育公務員の給与の種類及び額は当分の間国立学校の教育公務員の給与の種類及び額を基準として定める。」と規定して、条例を制定する際の基準を示した。

従つて、被告県において条例が定められるまで、公立学校の教育公務員に宿日直手当を支給する法的根拠は、地方公務員法附則六項旧三三条一一条しかないわけである。そうしてこれらの規定によつて地方公務員法施行当時も法制上、公立学校の教育公務員の宿日直手当は、国立学校の教育公務員と同一に取扱われることとなつた。

(六) ところが地方公務員法は右のような条例が近く被告県でも制定施行されることを予想し、経過規定である附則六項をおいて、これによつて暫定的にまかなうようにしたにも拘らず被告県では条例を制定しないまゝで、日を過したもので、その間被告県は昭和二七年度まで原告らに対し、前記「規程準則」及び右文部省昭和二四年六月二五日発初第四号「義務教育費国庫負担法施行令第四条の給与の額について」によつて示された定額を支給し、昭和二八年度から被告県の条例制定までの間は同様制度のもとに、被告県教育委員会で決めた金額を支給したことは被告県の自認するところである。

他方国立学校の教育公務員の宿日直手当は、一般職の職員の給与に関する法律の一部を改正する法律(昭和二七年一二月二五日法律第三二四号)によつて一九条の二の規定が追加され、同条にもとづき、昭和二八年一月一日から人事院規則九―一五が制定施行されることになつた。右規則二条には「宿日直勤務一回につき金三六〇円(五時間未満の場合は金一八〇円)」と定められたので、国立学校の教育公務員は同日以降右金額によつて宿日直手当の支給をうけ半日直手当も支給されることになつた。

そうすると、右にのべたように公立学校の教育公務員は、国立学校の教育公務員と同一に取扱はれるのであるから昭和二八年一月一日からの宿日直手当についても右人事院規則の適用をみるものとしなければならない。

被告県は「従前の例による」とはその時までに行はれていた一連の法規関係なり制度を指すもので、その后の改正法規制度にまでよらしめるものではないと主張しているが右附則六項は被告県が条例を制定するまでの暫定的経過規定であるとはいえ、現実にそのような条例が制定されるまではやはり国立学校の教育公務員と同一に取扱うのであるからその宿日直手当が法律によつて改正されれば、条例ができるまでは暫定的にそれによるとしなければ両者を同一に取扱つたことにならないことは明らかである。

被告県のように解釈すると国立学校の教育公務員の宿日直手当は時勢の変化に伴つて増額されていくのに公立学校の教育公務員のそれは、その時にまで行はれていた金額から増額されないことになり、被告県が条例の制定を遅くらせば遅くらす程低額の宿日直手当の支給で事足りるという不合理な結果をもたらすわけでこのような解釈は到底採用できるものではない。

(七) 被告県の条例を昭和三二年九月一日制定したがその条例でも宿日直手当の支給について「なお従前の例による」と規定した。これは、同年八月三一日の制度額をいうものであつて、その頃被告県は本校分校について各一定額を支給していたそれを指すものであると主張している。しかし、前述したように、被告県が公立学校の教育公務員に宿日直手当を支給する法的準拠法は、地方公務員法附則六項旧三三条及び一一条しかないのであつて、事実上被告県が主張のような一定額を支給したとしても、それは何等法的根拠のないものであるから被告県が支給した一定額の支給が直ちにに「従前の例」となるものではなく、被告県の右条例のいう従前の例とは公立学校の教育公務員は国立学校の教育公務員と同一に取扱はれ従つて前者の宿日直手当も人事院規則九―一五によつて支給されるという法制度を指称すると解さなければならない。

五、被告県は一一条の規定は訓示規定であると主張しているが当裁判所がそのような見解をとらないことは、右に説示したとおりである。そのわけは、旧三三条によつて公立学校の教育公務員の宿日直手当は政令によつて定めることができたが政令は何等具体的に決めることをしないで一一条によつて、一先づ国立学校の教育公務員の例によると規定して、国立学校の教育公務員と同一の取扱にした。若し被告県が主張するようにこれが訓示規定で同一の取扱いをしなくても足りるとするなら原告らの宿日直手当は、被告県の恣意に任されることになり、政府職員であつたときと何等その仕事の内容が変つておらないのに地方公務員に身分が切りかえられたその時から右宿日直手当について、被告県が自由に決めることができることになる。しかし一一条の法意がそのようなものであつたと解することは到底できないのであつて、そのことは、一一条が法律改正により新法律制度が整備されるまでの空白状態を埋めるものであることに想到すると、自ら明らかである。

被告県は、一一条が訓示規定であることを論証するために理由を列挙しているので、その理由を逐次考えてみると、

(1)  憲法の保障した地方自治の精神から被告県が公立学校の教育公務員の給与などについて独自の立場で取りきめができると主張している。成程憲法の保障した地方自治の精神から、被告県が独自の立場で、原告らの宿日直手当の額を決めることが望ましいには違いない。地方公務員法二四条が「職員の給与などは条例で定める」としたのもこの趣旨によつている。ところで一一条が制定されたのは公立学校の教育公務員が身分を切りかえられ給与などについて空白状態になつたその一時的空白を埋めるためのものであるから、一先づ、国立学校の教育公務員と同一に取扱い后程早急に法的整備をすることを法は予定していたと考えられる。過渡的に公立学校の教育公務員の給与などを国立学校の教育公務員のそれと同一に取扱うことも立法技術的にやむをえなかつたもので、そうだからといつて直ちに憲法に違反するものでもなければ逆に憲法の地方自治の規定から一一条を訓示規定であると結論づけられるものでもない。

(2)  一一条を制定施行后公立学校の教育公務員の宿日直手当は、国立学校の教育公務員のそれと同一に支払はれておらないと主張している。成程同一に支払はれておらないことは前述したとおりであるがその差別が何等法令上の根拠によるものでないことも前に説示したとおりである。従つて実際同一に扱はれておらないことを理由に一一条が訓示規定であると断ずるのは論理が逆であり、実際の取扱いをこそ改めるべきである。

(3)  被告県は右事実上の取扱いが異るところから立法者自ら暗黙のうちに有権的に一一条を訓示規定と解釈していると主張しているがその誤りであることは前項で説示したとおりである。立法者が明示的に一一条を強行規定としたことは一一条制定前后の経過と一一条の規定の体裁とをみれば自明のことである。

(4)  旧三三条が削除され、教育公務員特例法二五条の五の規定ができたがこの規定は一一条の規定が制定施行されるときからの考え方をそのまゝ明定したものであると主張するが一一条の規定はさきにも述べたように空白状態を埋めるための一時的経過規定であるのに対し右二五条の五の規定は被告県が条例を制定するときの基準を示したもので両者夫々別個の目的をもつて立法されたものであるから右を理由に一一条が訓示規定であると解する根拠とするわけにはいかない。

(5)  労働基準法適用の有無により一一条は、訓示規定であるとの被告県の論旨も一一条の立法趣旨をさきに当裁判所が解釈したように解するかぎり採用できない。

六、そうすると、被告県はその条例が制定施行されてもなお従前の例によつたのであるから原告らは、同条例によつて被告県の人事委員会規則第一号が制定施行された昭和三三年一一月一日までは宿日直手当などの給与について国立学校の教育公務員のそれと同一に取り扱はれ、昭和二八年一月一日から人事院規則九―一五により宿直手当日直手当各一回金三六〇円の支給を受ける権利があることになる。従つて、被告県は原告らに対し既支給済金額との差額を支払はなければならない筋合になる。

七、原告藤原ナルミ、同夏田サナエ、及び同下田ミユキの半日直手当請求について判断すると、右原告ら三名が、その主張の回数土曜日の午后在校したこと(但し原告藤原ナルミの回数については争いがある。)は当事者間に争いがなく原告藤原ナルミの回数が主張どおりであることは、さきに認定したとおりである。

被告県は、被告県の条例が制定施行されるまで、被告県には半日直制度がなく校長がその夜の宿直勤務として、或はその日の日直勤務としてこれに当らせていたものでそれに対し手当は支給されない取扱いであつたと主張している。

しかし、被告県の条例が制定施行されるまでは右原告らは国立学校の教育公務員と同一に取扱はれるのであるがら昭和二八年一月一日から右人事院規則九―一五により一回金一八〇円の割合で、半日直手当を支給しなければならないことは当然である。

そうして、(証拠)によると、被告県下の公立学校では古くから輪番制によつて、各学校校長が土曜日の午后の当番を決め、その者に対し火気の取締り、外来者の応接、電話の受付けなどの仕事に当らせていたがそのような仕方は右人事院規則九―一五が制定施行された昭和二八年一月一日以后も変りないこと及び右原告ら三名は各勤務学校長の命をうけて右の当番に当つて夫々勤務したことが認められ、右認定に反する証人(省略)の各証言は採用しない。

右認定の事実からすると、右原告ら三名は昭和二八年一月一日以降各勤務学校長の命令をうけて半日直勤務をしたものであるから被告は右原告ら三名に対し国立学校の教育公務員と同様一回金一八〇円の半日直手当を支給しなければならないこと勿論である。

被告県は、昭和二八年二月三日人事院細則九―一五―一の一条を掲示して被告県が半日直制度を認めない根拠にしようとしているが右認定のとおり原告ら三名は、夫々の勤務学校長から土曜日に半日直をするように命令されて夫々その勤務をしたものであるから、はじめから同条にいうように「土曜日に退庁時から引続き宿直勤務を命じられた場合」ではない。従つて、右原告ら三名の半日直に対し同条が適用される余地はない。

八、被告県は、また原告らが受けとつた宿日直手当は被告県と原告らの所属する宮崎県教職員組合とが団体交渉の結果取りきめたもので、その額を原告らは異議なく受けとつておきながら、今日になつて、さきに受けとつた金額はその内払いだと主張するのは信義則に反し権利の濫用であると主張する。しかし職員団体は、職員の給与などの勤務条件に関し当該地方公共団体の当局に交渉することができても団体協約を締結する権利がないことは、地方公務員法五五条一項に明定するところである。そうして、右の場合書面で協定を結ぶことはできるがそれによつて決められたことは、当事者間に法的拘束力のないことも同条三項が明定している。従つて、仮りに被告県と原告らの所属する宮崎県教職員組合との間に何らかの取りきめがあつたにしても、それが原告らを法的に拘束するものでないから被告県のこの主張は採用に由ない。

九、そこで最后に被告県が主張する時効の抗弁について判断を進める。

(一)  地方自治法一三三条による会計法三〇条は「金銭の給付を目的とする国の債権で、時効に関し他の法律に規定がないものは、五年間これを行わないときは、時効に因り消滅する。」と規定している。ところで、地方公務員法五八条は、労働基準法一一五条の適用を排除しておらないので、同条によると、賃金その他の請求権は二年間これを行はない場合においては時効によつて消滅する。と規定しているので、同条は会計法にいう他の法律に該り、従つて、原告らの被告県に対する宿日直(半日直も含む)手当請求権は、二年の時効によつて消滅すると解するのが相当である。

原告らは、会計法三〇条にいう他の法律に、労働基準法は該当しないと主張しているが地方公務員法五八条は、積極的に労働基準法一一五条の規定の適用を排除していないのであるから同条の適用を拒むわけにはいかない。

右の解釈は労働基準法一条二項の精神に反するというが同項の精神から直ちに同法一一五条の適用がないと結論づけられるものではない。

原告らは、国家公務員と地方公務員との不均衡を理由に五年の時効によつて消滅すると解すべきであると主張するが不均衡だけを理由に、地方公務員法五八条が労働基準法一一五条の適用を積極的に排除しておらないのに、同条の適用を排除していると解釈することはできない。

(二)  さて、右に説示したように、原告らの宿日直手当(半日直を含む)については、国立学校の教育公務員と同一に取扱はなければならないところ、人事院規則九―七(昭和二八年二月七日制定、同年一月一日施行)一一条によると、宿日直手当は一の給与期間の分を次の給与期間における俸給の支給日に支給することになつており、俸給の支給について同規則一条で、文部省は月の一日から一五日までの分は当月九日、月の一六日から末日までの分は当月二四日(右両当日が休日のときは至近前日)に支給することにしている。従つて、宿日直手当の履行期は、月の一日から一五日までの分は、当月の二四日、月の一六日から末日までの分は翌月の九日であると解するのが相当である。

原告らは、宿日直手当の請求は、当月分を翌月の一〇日までに請求していたから、履行期は、翌月の一〇日であると主張し、実際上の取扱いは当月分を翌月の一〇日支払つていたことは被告県も認めているが、このような実際上の取扱いによつて右法律上の履行期が左右されるものではないからこの主張は採用に由ない。

(三)  そうすると、原告らが被告県に、内容証明郵便で、宿日直手当(半日直手当を含む)の支払いを請求した日であることが当事者間に争いのない昭和三四年二月四日を基準にして考えると昭和三二年一月一五日から同月三一日までの分は同年二月九月に履行期が到来することになるから原告らの請求のうち同年一月一五日までの宿日直手当請求権は、時効によつて消滅したことに帰着し、同月一六日以降の分についてのみ被告県は支払えば足りるわけである。そうして、その額は、別紙計算表中認容金額欄記載の各金額(昭和三二年一月一六日から昭和三三年一〇月三一日までの宿日直手当半日直手当を一回金三六〇円(半日直手当はその半額)で計算し、それから既支給済金額を控除したもの)であることは計算上明らかである。

一〇、以上の次第であるから被告県は、原告らに対し、右認容金額欄記載の各金額と、これに対する昭和三四年二月五日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払はなければならないから原告らの本件請求は右の限度で正当として認容し、その余の請求は失当であるから棄却し、仮執行の宣言はその必要がないから附さないことにする。そこで、民訴九二条九三条を適用して主文のとおり判決する。

宮崎地方裁判所民事部

裁判長裁判官 野田普一郎

裁判官 古 崎 慶 長

裁判官 三浦伊佐雄

別紙計算表<省略>

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